「素晴らしき高梨沙羅選手」

3月16日、ジャンプ女子のW杯第17戦がスウェーデンのファルンで行われた。

既に、個人総合2連覇を決めている高梨沙羅選手は、6連勝を飾り、今季14勝目、通算で23勝目を挙げた。強風で開始が2時間遅れる悪条件の中、高梨選手は、出場選手で唯一2回ともK点を越えるジャンプを見せた。

 これで、今シーズンのW杯で、17戦中14勝だ。優勝勝率は、0.823だ。これは、とてつもない成績である。世界のトップ選手が集うW杯で、優勝勝率が8割を越えるのだ。

 こうしたW杯で圧倒的な強さを見せる高梨選手であるが、2月のソチ五輪では、惜しくも4位で、メダルには届かなかった。

 ソチ五輪前後にわたり、高梨選手がW杯で圧倒的な強さを見せれば見せるほど、なぜソチ五輪で金メダルを獲れなかったのだろうと思ってしまう。


 日本時間2月12日、午前2時半過ぎ、ソチ五輪ジャンプ女子のノーマルヒルの1回目が始まる。テレビの実況中継の解説者は、あの原田雅彦さんだ。原田さん曰く。「いよいよ始まりますね。ドキドキしてきましたね」

 1回目の結果、高梨沙羅選手は、100mを飛び、124.1点で3位。1位は、ドイツのカリーナ・フォクト選手が103mの126.8点。2位は、フランスのコリン・マテル選手が99.5mの125.7点だ。  

 3位の高梨選手と1位のフォクト選手との差は、わずか2.7点差。僅差の戦いだ。2回目に、高梨選手は確実に逆転してくれる。頑張れ、高梨選手!!

運命の2回目が始まる。

 高梨選手が飛ぶ。しかし、距離が伸びない。98.5m。あと二人を残して、2位。

 結果は、高梨選手は、4位。メダルに届かなかった。

 しばらくして、高梨選手に対するテレビのインタビューが始まる。聞き手は、NHKの工藤アナだ。

「どうですか、初めてのオリンピックが終わって」

「支えて下さった方々に感謝を伝えるためにここに来たので、そこでいい結果を出せなかったことは残念です」

「いつもの大会とオリンピックが違うところはありましたか?」

「自分ではやることは 一緒なので、どの試合も変わらずに挑んでいたつもりだったんですけど…。やはりどこか 違うところがあるなと感じました」

「これからもみんなが沙羅さんのことを応援すると思います」

「またこのオリンピックに戻って来られるように、もっともっとレベルアップしていきたいと思います」

 インタビュー画面には、歯を食いしばり、泣くまいとこらえながら、しかし涙する、高梨選手の姿がある。17歳の少女は、日本国民全体からの金メダル獲得の期待を一身に集めながら、必死で戦った。そして、敗れた。

「がんばりましたね」

 さすがは、NHKでスポーツ実況中継の歴史を担ってきた工藤アナだ。インタビューの真髄を示してくれる。

 高梨選手は、今季のW杯13戦10勝、すべて3位以内という圧倒的強さでソチ五輪の大一番に臨んだ。この成績を見れば、日本国民の誰しもが金メダルを期待するどころか、金メダル間違いなしと思ってしまう。

 日本国民全体からの過熱した応援が与える重圧たるや、想像を絶するものだったのだろう。その重圧が大一番に臨む高梨選手の平常心を狂わせた。なんぼ優秀でも、高梨選手は、17歳の少女だもの。無理はない。

 今季のW杯13戦10勝、すべて3位以内という圧倒的強さから、高梨選手は、勝てる、と当然思う。ここまではいい。しかし、日本国民全体からの重圧で、勝たなきゃ、との思いに変わる。ここで、平常心が狂う。

 そして、不運もあった。原田雅彦さんがその後の解説の中で曰く。「彼女は絶対言い訳しないと思うので、僕が言います。高梨選手の時だけ追い風が吹いてしまいました。2本とも」。

 結局、高梨選手が4位と、メダルに届かなかった要因は、日本国民全体からの金メダル獲得の期待がもたらす重圧が高梨選手の平常心を狂わせたことと、2本とも不利な追い風が吹いたことだ。

 ソチ五輪から競技種目に採用されたジャンプ女子で金メダルを獲得し、初代女王に輝いたのは、ドイツのカリーナ・フォクト選手、22歳だ。

 フォクト選手は、2012-2013シーズンは好調で、ソチ五輪直前までのW杯で総合2位につけてはいるものの、それまでW杯で優勝したことがない。それどころか、ソチ五輪直前の2月9日のW杯蔵王大会が自身初の表彰台(3位)達成である。

 つまり、今シーズンのフォクト選手は、なかなか表彰台に立てないものの、毎回コンスタントに入賞ラインは確保し、総合2位につけているという、浪がない実力者である。

 フォクト選手は、W杯で総合2位につけているから、勝ちたい、と思う。しかし、表彰台達成は、2月9日のW杯蔵王大会の3位という1回だけだから、勝てる、とは思わない。ましてや、勝たなきゃ、とは思わない。

 おそらく、フォクト選手は、どの色でもメダルを獲れればいいな、くらいの気持ちで飛んだ。ドイツ国民もそんな気持ちで応援した。その点、高梨選手の場合に比べれば、随分と気は楽だ。

 フォクト選手は、思い切って飛ぶことだけを考えた。ほかの余計なことは考えない。というより、考える必要がない。

 そういう時に限って、風は、いい風が吹く。2本とも、有利な向かい風が吹いた。

 その結果、フォクト選手が金メダルを獲得し、初代女王に輝いた。そうした結果に、世界中で最も驚いたのは、フォクト選手自身だ。信じられないことが起こったのだ。

 
 高梨沙羅選手は、実によく頑張った。受け止めきれないだけの重圧の中で、しかも、2本とも不利な追い風が吹いた中で、メダルにあと一歩の4位入賞。実に立派なものだ。

 ソチ五輪後の高梨選手の成績から分かるように、高梨選手は、ソチ五輪で4位と敗れたことにより、更に強くなった。高梨選手にとって、すべては、ソチ五輪での敗北、その悔しさから始まった。

 NHKの工藤アナからのインタビューを受け、それに答え、歯を食いしばり、泣くまいとこらえながら、しかし涙する、高梨選手の姿。

 その経験は、17歳の少女を成長させ、飛躍させるに十分なものである。

 「がんばりましたね」。インタビューの最後に工藤アナが高梨選手にかけたねぎらいの言葉。それは、高梨選手を応援した日本国民全体からの言葉である。

 17歳の少女は、これをありがたく受け止め、その後の頑張りで恩返しをしよう、と固く誓ったのである。
 

 素晴らしき高梨沙羅選手。 

 
 ありがとう、高梨沙羅選手!! そして、頑張れ、高梨沙羅選手!!


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